今週のお題「本棚の中身」
突然、「あの本のあのページが読みたい!」と思うことがある。その本はずっと昔に読んだ本だったりすることも多い。
そういうとき、その本が手元にないと落ち着かなく、気持ちがスッキリしない状態が続く。
「読みたい、読みたい、読みたい」
まるで”飢え”の状態だ。どうにも我慢ならない。なのでなるべくお気に入りの本は手元に置いておきたいと思うが、なかなかそうもいかない。
随分と昔の話になるが、結婚して実家を出るときに自分の部屋にあった2本の本棚を処分しなければならなかった。
娯楽も情報収集も全てが紙媒体だった頃、私の本棚はまさにパンパンで本の奥に本、本の上にも本、さらに棚から溢れた本が常に床に積み上げられている状態だった。
こんなものは新生活が始まる2DKのアパートに持っていくわけにはいかない。
多分あの時の引っ越し準備で一番大変だったのが本の処分だ。
雑誌は捨てた。
漫画は残したかったけど、全巻揃っていないものは処分した。
図書館でいつでも借りることができそうな昭和の文豪たちの名作は古本屋に売った。
残ったのは全巻揃っている漫画と再版が期待できない本、そしてマイナーで書店に並びそうにもない本、それでも本棚1本分あったと思う。
それを収納ケースに詰めて、いつか必ず引き取るからという約束で実家の押し入れに片づけた。まるで育てられない乳飲み子を託すように。
あれから20年以上経ち、4年前に引っ越した我が家には「ファミリーライブラリ」と銘打れた造り付けの大きな本棚がある。普通のハードカバーの書籍が300冊はゆうに入る本棚だ。
「やっとあの本たちを手元に取り戻すことができる」
引っ越し前、何も入っていないこの本棚を眺めると何故かきちんと棚に本が収まっている景色が見えてひとりニヤニヤした。
なのに、2022年の6月現在、ファミリーライブラリはとても本棚とは呼べない状態だ。
並んでいるのは引っ越し以来開けていない収納ケースだったり、夫のゴルフ用パターマットだったり、洗濯ハンガーや掃除道具だったり……こんなはずじゃないだろう!
そんな中、唯一私のイメージ通りに本が置かれている場所がある。本棚に正面中央から向き合って立ち、目線の高さでスーッとを右を見遣ったところ。
そこには引っ越し当初に私がいそいそと実家から運んできた 安部公房全作品(全15巻) がある。
これは30年前、卒業論文のために一見の客なんぞは相手にしてくれなそうな、古紙の匂いに満ち溢れた神保町の古書店でオドオドしながら買った私の宝物だ。
外函(そとばこ)はグレー。安部公房全作品 と白字で書かれた背表紙が1巻から15巻まできれいに並んでいる。ちなみになぜか数字は淡い黄色だ。
本棚にお気に入りの本がお気に入りの順序で並んでいるのを眺めると、なんというか好きな絵を見ているように落ち着いた気持ちになる。
読みたいときにすぐ読めることも大事なのだが、本棚に好きな本が好きな順序で並んでいるということも同じくらい大事なのだ。
求めているのは「読みたいときに読める安心感」と「本棚を眺める幸せ」
このブログを書いていたら他の本も早く並べたくなってきた。うん、実家に行こう。